だからあたしは駄目なんだ

 左の乳房に人の顔が現れた。人面瘡と呼ぶにしては立体的だった。乳首の斜め上あたり。引き攣れて痛むと思ったら、それは目を開けていた。小さな目玉があたしを見上げている。まばたきをした。あたしはそれに高志と名前をつけた。
 高志が現れてから、あたしはまともな男と付き合うことが出来なくなった。当然だ。普通の男は高志を見て、怖がって逃げ出す。逃げ出さないどころか逆に興奮しだすような男にはあたしが引いた。
 このままじゃ一生一人かもしれない。それは寂しい。そんなのは耐えられない。高志を取ってしまえばいいのだろうけれど、乳房に傷をつけるのは嫌だった。
 あたしは毎晩鏡の前で高志に話しかけた。まばたきできるのだから、いつかしゃべれるようになるかもしれない。そうなれば少しは寂しくなくなる。そう思った。
 そうして一ヶ月ほど経ったある晩、高志は言葉を発した。
「ゆうこ」
 あたしの名前を呼んだその声は女のものだった。
「嘘。なんで女なの? 話ができても男じゃなきゃ楽しくないじゃないのよ」
 思わずそう言うと、高志はため息をついた。
「だからあんたは駄目なんだ」
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