網棚に置いたカバンに右側から手が伸びてきたから驚いた。私は慌ててカバンを掴む。伸びてきた手を辿ると、右隣に立つ女の向こうから男がこちらを覗き込んでいた。
その顔には見覚えがある。
いや、見覚えと言っていいのか。
その男の顔は私にそっくりだった。
よく似た他人か、と最初は思った。しかし、その男の左頬に赤く走った傷を見て、私は小さく息を呑む。知らずに自分の左頬に手を当てる。そこには、今朝髭剃りに失敗してつけてしまった傷が赤く残っているはずだ。
男はにやりと笑った。
私は思わず一歩後ずさりした。
男は隣りの女を押しのけ、私の方に近づいてくる。にやにやと笑っている。
私は逃げた。電車は混んでいる。
「と、通してくれ」
人の隙間に体を埋めるようにして先に進もうとした私の肩を掴む手がある。振り返らなくてもわかる。私にそっくりのあの男だ。
突然視界が暗くなる。何も見えない。
「次はお前の番だ」
耳元でそう聞こえた。
気が付くと私はつり革につかまっていた。いつもの電車だ。立ったまま居眠りでもしていたのか。
網棚を見るとカバンが左に寄っていた。私は元に戻そうと手を伸ばす。すると、私より先に誰かがカバンを掴んだ。左隣に立つ女の向こうを覗き込むと、相手の男もこちらを見ていた。
その顔には見覚えがあった。
いや、見覚えと言っていいのか。
その男の顔は私にそっくりだった。
次はお前というのはこういうことか。
男は小さく息を呑む。
私はにやりと笑った。